コーディネーターブログ

「らしさ」は、センスよりも「決めごと」でつくる。

こんにちは。
宮城県よろず支援拠点コーディネーターの酒井裕希です。

お店や会社のSNS、チラシ、ホームページを見比べてみると、

「SNSは親しみやすいのに、ホームページは堅苦しい」
「チラシをつくるたびに、色や雰囲気が変わる」
「担当者によって、文章の書き方が違う」

そんなことはありませんか。

どれも、それぞれの担当者が一生懸命に考えた結果かもしれませんが、発信するたびに印象が変わってしまうと、お客様から見た「その会社らしさ」は、少しずつ曖昧になってしまいます。

先日開催したオンラインセミナー「らしさはルールでつくれる。発信がブレなくなる『決めごと』のつくり方。」では、こうした発信のブレを防ぐための考え方についてお話ししました。

今回は、言葉や写真、色などを通じて、自社らしい発信を整える方法をご紹介します。


発信がバラバラになるのは、センスの問題ではない

チラシやSNSの制作を複数のスタッフで担当していると、表現に違いが出ることがあります。

ある人は、明るく元気なデザインが好き。
別の人は、落ち着いた上品なデザインが好き。
また別の人は、とにかく目立つことが大切だと考えている。

それぞれの感覚は、間違っているわけではありません。

ただ、その都度、担当者の好みだけで判断してしまうと、会社としての印象は揃いません。

たとえば、同じ飲食店なのに、SNSではカジュアルで親しみやすい言葉を使い、チラシでは高級感を強調し、ホームページでは事務的な説明ばかりになっていたら、どうでしょう。お客様は、どんなお店なのか、少しわかりにくくなってしまいます。

これは、担当者のデザインセンスが足りないからではありません。「何を基準に選ぶのか」が、共有されていないことが原因。つまり、必要なのはセンスを揃えることではなく、判断する基準を揃えること。 そのための「決めごと」が、発信の一貫性を支えます。


「トンマナ」は、会社の声や雰囲気を揃えること

広告やデザインの世界には、「トンマナ」という言葉があります。トーン&マナーの略で、言葉や写真、色、書体などの表現に一貫性を持たせるための考え方です。少し専門的に聞こえますが、難しく考える必要はありません。

たとえば、人と話すとき。同じ内容を伝える場合でも、親しい友人に話すときと、初めて会うお客様に話すときでは、言葉遣いや声の調子が変わります。

丁寧に話す。
親しみを込めて話す。
元気よく話す。
落ち着いて話す。

どれが正しいということではありません。

相手との関係性や、その場にふさわしい話し方があります。

企業やお店の発信も同じです。

言葉遣いは、声の調子。
文字の大きさは、声の大きさ。
写真や色は、その場の雰囲気・・・

それらを組み合わせることで、お客様に伝わる印象が生まれます。

トンマナを整えることは、会社としての「話し方」を整えること。 単にデザインを統一するのではなく、どんな姿勢でお客様と向き合うのかを、表現として揃えていくことなのです。


まずは「どんな会社として覚えてほしいか」を考える

では、トンマナは何から決めればよいのでしょうか。
いきなり色やフォントを選ぶ必要はありません。

まず考えたいのは、
「お客様に、どんな会社やお店として覚えてほしいか」
ということです。

たとえば、同じ美容室でも、「気軽に相談できる、親しみやすい美容室」と、「静かな時間を過ごせる、上質な美容室」では、ふさわしい表現が違います。

前者なら、自然な笑顔の写真や、話しかけるような言葉が似合うかもしれません。
後者なら、落ち着いた写真や、余白を活かしたデザインが似合うかもしれません。

大切なのは、どちらがおしゃれかではありません。
自分たちが大切にしている姿勢と、お客様が期待する印象が合っているか。
ここが曖昧なままでは、表現を揃えるためのルールも決まりません。

まずは、自社を表す言葉をいくつか挙げてみてください。「誠実」「親しみやすい」「専門的」「楽しい」「落ち着いた」など、身近な言葉で構いません。その中から、自分たちが特に大切にしたいものを選びます。 この言葉が、後からデザインや文章を判断するときの基準になります。


揃えるのは、色やロゴだけではない

トンマナというと、ロゴの使い方やブランドカラーを決めることを想像するかもしれません。もちろん、それも大切です。でも、日々の発信では、それ以外にも揃えておきたいものがあります。

たとえば、次の4つです。

① 言葉の使い方
お客様への呼びかけ方や、文章の語尾、専門用語の使い方など。親しみやすい会社なら、話しかけるような言葉を使う。専門性を大切にする会社なら、わかりやすさを保ちながら、正確で丁寧な説明を心がける。同じ内容でも、言葉の選び方で印象は変わります。

② 写真の選び方
人物を中心にするのか。商品を中心にするのか。明るい自然光の写真なのか。落ち着いた雰囲気の写真なのか。写真の選び方にも、会社らしさは表れます。毎回違う雰囲気の写真を使うのではなく、どんな写真が自社に似合うのかを考えておきます。

③ 色や書体の使い方
ブランドカラーを決めるだけでなく、背景色や文字色、書体の雰囲気なども揃えていきます。色や書体は、単なる装飾ではありません。元気に見せたいのか。安心感を伝えたいのか。信頼感を大切にしたいのか。目的に合わせて選ぶことが大切です。

④ 情報量と見せ方
情報をたくさん載せるのか。ひとつのメッセージを大きく伝えるのか。余白を活かすのか。写真を中心に見せるのか。

こうした情報の整理の仕方も、印象を左右します。大切なのは、すべての媒体をまったく同じデザインにすることではありません。違う表現でも、同じ会社から発信されていると感じられること。 そこに、トンマナを整える意味があります


「やること」だけでなく、「やらないこと」も決める

ルールをつくるとき、つい「何を使うか」を考えがちです。

この色を使う。
この書体を使う。
この言葉を使う。

もちろん、それも必要です。
でも、もうひとつ大切なのが、

「何を使わないか」を決めることです。

たとえば、落ち着いた雰囲気を大切にするお店なら、
・過度に派手な色は使わない。
・強い売り込みの言葉は使わない。
・情報を詰め込みすぎない。
といった決めごとが考えられます。

一方で、明るく楽しい雰囲気を大切にするお店なら、堅苦しい言い回しや、事務的すぎる写真を避けることも考えられます。何を選ぶかだけでなく、何を選ばないか。この両方が決まると、判断はずっとしやすくなります。担当者が変わっても、「この表現は、うちらしくないね」と、共通の基準で話し合えるようになります。ルールとは、自由をなくすためのものではありません。

迷う時間を減らし、表現を考えることに集中するためのもの。そう捉えると、ルールづくりの意味も少し変わってくるのではないでしょうか。


ルールは、誰でも使えるくらいシンプルに

せっかくルールをつくっても、使われなければ意味がありません。

何十ページもある立派なマニュアルを用意しても、日々のSNS投稿やチラシ制作のたびに確認するのは大変です。特に、小規模な事業者の場合は、専任の広報担当者がいないこともあります。接客や営業、事務作業の合間に発信を担当することもあるでしょう。だからこそ、最初から複雑なルールをつくる必要はありません。

たとえば、A4用紙1枚に、

「私たちらしい印象」
「使いたい言葉・使わない言葉」
「写真の雰囲気」
「基本の色と書体」
「情報の見せ方」
を整理するだけでも、判断の助けになります。

そして、できれば具体的な見本も用意しておきます。
「親しみやすく」と書くだけでは、人によって解釈が違います。

でも、実際のSNS投稿や写真を見ながら、

「こういう言葉遣いが、うちらしい」
「この写真の雰囲気が近い」
「このくらいの情報量が読みやすい」
と共有できれば、判断のズレは小さくなります。

ルールは、読んで理解するだけでなく、使って判断できることが大切です。最初から完璧を目指さず、使いながら少しずつ整えていく。 そのくらいの始め方が、ちょうどよいのかもしれません。


発信する前に、3つのことを確認する

最後に、日々の発信で使える簡単な確認方法をご紹介します。

チラシやSNSの投稿を公開する前に、次の3つを考えてみてください。

① 自分たちらしいか?
言葉遣いや写真、色などが、自社の大切にしている姿勢と合っているか。

② お客様に合っているか?
自分たちが伝えたいことだけでなく、相手が受け取りやすい表現になっているか。

③ ほかの発信とつながっているか?
SNS、ホームページ、チラシなどで、印象が大きく食い違っていないか。

この3つを確認するだけでも、発信のブレに気づきやすくなります。

大切なのは、すべてを同じにすることではありません。SNSにはSNSの役割があり、チラシにはチラシの役割があります。伝える場所や目的によって、表現は変わってよいのです。ただし、その根底にある会社の姿勢は変わらない。

「表現は変わっても、らしさは変わらない。」 そんな状態を目指してみてください。


おわりに

ブランドづくりというと、ロゴを新しくしたり、デザインを一新したり、大きな取り組みを想像するかもしれません。でも、お客様の中に生まれる「その会社らしさ」は、日々の小さな発信の積み重ねでもつくられています。

SNSの言葉。
チラシの写真。
ホームページの色。
店頭の案内文。

それぞれが少しずつ揃っていくことで、会社の印象は育っていきます。

そして、その一貫性を支えるのが、会社としての「決めごと」です。ルールは、表現を窮屈にするためのものではありません。

誰が担当しても、自分たちらしい発信ができるようにするためのもの。センスに頼るのではなく、判断できるようにする。それが、発信のルールづくりの第一歩です。まずは、いま使っているSNSやチラシ、ホームページを並べて見比べてみてください。

「どこか、雰囲気が違うな」

と感じるところがあれば、そこが見直しの入口です。「らしさ」は、特別な才能だけで生まれるものではありません。 日々の小さな「決めごと」が、自分たちらしい発信を育てていきます。


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