コーディネーターブログ

【チーフの視点】中小企業の労働生産性を、取り戻せ。

宮城県よろず支援拠点チーフコーディネーターの佐藤です。
本コラムは「チーフの視点」として、中小・小規模事業者の経営者に向け、経営戦略に対する新たな気づきをお届けします。

今回から少しシリーズで、日本の中小企業の労働生産性の状況について触れていきます。そして、中小企業こそ、イノベーションを起こすべきである、という持論をお伝えできればと思います。

1.失われた30年間の、中小企業の労働生産性

まず結論から示します。
ここ30年間、中小企業の労働生産性はほぼ横ばいのままです。

具体的に言いますと、小規模企業の労働生産性、つまり従業員1人当たりの付加価値額は503万円(2023年時点)で、大企業の約1/3にとどまっています。30年前から大きく改善しているとは言えない状況です。

下図の左下グラフに、この推移が示されています。オレンジ色が中規模企業、赤色が小規模企業です。コロナ禍以降、青色の大企業との間に大きな差が開いてきました。
これは単なる統計上の話ではなく、現場の体感とも一致しているのではないでしょうか。忙しいのに利益が残らない。売上は回復しているのに、手元に残るお金が増えない。そんな声を多く耳にします。

また右側のグラフでは、付加価値額の内訳を示しています。中小企業では付加価値の約8割が人件費に充てられ、営業利益は1割未満にとどまっています。つまり、原価高騰や人件費上昇圧力に対して、いまの構造のままでは耐えきれなくなる可能性が高い、ということを示しています。

これが、現在の中小企業のリアルです。

2.労働生産性って改めて何?

ここで改めて「労働生産性」という言葉を整理しておきます。

労働生産性とは、企業の付加価値額を従業員数で割ったものです。
つまり、従業員一人当たりがどれだけの付加価値を生み出しているかを示す指標です。

付加価値額とは、ザクっと言うと粗利額と考えて頂いて問題ありません。
材料費や外注費など、生産のために外部へ支払った費用を差し引いた残りのことです(厳密には積み上げ方式など複数の計算方法がありますが、ここではシンプルに理解頂ければ十分です)。

付加価値額 ÷ 従業員数 = 労働生産性

というシンプルな式になります(下図を参照)。

そして、労働生産性を高めるためには、次の2つしかありません。

  • 付加価値額を増やす
  • 労働投入量を適正化する

このどちらか、もしくは両方です。

付加価値が伸びなければ、企業は停滞します。仕入れや人件費などの各種コスト上昇に対応できなくなります。
一方、労働生産性が低いままだと、人件費負担が重くなり、利益がさらに圧迫されていきます。

この構造から抜け出さない限り、企業体質は強くなりません。

3.中小企業を取り巻く外的要因

では現在、中小企業を取り巻く環境はどうなっているでしょうか。
結論から言えば、厳しさを増しています。以下の図にその外圧やリスクを記載してみました。

まず、ロシア・ウクライナ紛争に端を発したエネルギー・原材料価格の高騰。
あらゆる商品の物価上昇が、ウイルスのように世界から日本へ押し寄せてきました。これらは仕入れコストを押し上げ、企業の付加価値を直接的に減少させます。

次に、人口減少社会における慢性的な人手不足。
そこに重なる賃上げ圧力。採用と定着は年々難しくなり、人件費は上昇していきます。結果として、付加価値の中で人件費の占める割合はさらに高まります。

さらに、後継者不足の問題。
そして、コロナ禍で実行された実質無利子融資の返済が本格化し、資金繰りへの影響も無視できません。キャッシュフローの悪化は、設備投資や新たな挑戦をためらわせる要因にもなります。

これらの外的要因自体を直接コントロールすることはできません。
しかし、だからといって手を打たないわけにはいきません。

4.中小企業がとるべき対応策

こうした脅威への対応策を、下図に黄色部分で追記しました。これこそが今後中小企業がとるべき大きな方針となります。

まずは右上に記載した「価格転嫁」です。
原材料高騰や人件費上昇に対し、適正な利益が確保できる価格へと見直していく。これを避けて通ることはできません。利益を確保しながら賃上げも進めていく、いわゆる「物価上昇を超える賃上げ」を実現するための第一歩です。

ただし、それだけでは十分ではありません。
労働生産性そのものを高めていく必要があります。

そのためには、DXや設備投資による労働投入量の適正化。
さらに重要なのが、イノベーションによって「付加価値額そのものを高める」ことです。

ここは強調しておきたい点ですが、
付加価値を高める仕事は、経営者の最も重要な役割です。

コスト削減や業務改善、DXの実行は、優秀な従業員でも担えます。しかし、ビジネスモデルを見直し、事業の価値そのものを高める意思決定ができるのは経営者だけです。

必要に応じて海外展開や設備投資による成長加速も検討していく。
またDXや省力化によって生まれた人手の余剰は、より付加価値を生む仕事へとシフトさせる。リスキリングを進め、単純労働に人を張り付けたままにしない。

人手を単純作業に固定し続けること自体が、すでに贅沢な時代になっています。
働き方改革を進めつつ、女性・シニア・外国人・副業人材など多様な働き手が活躍できる環境へと変革していく必要があります。

5.中小企業は独自性を高めイノベーションを起こしていくべき

今回は、中小企業が置かれている現状をあらためて整理してみました。
こうして体系的に捉えることで、国の施策や支援制度も面的に理解できるようになります。

補助金・助成金を活用した生産性向上の取り組みについては、よろず支援拠点をはじめとする各種支援機関で詳細なサポートを受けることができます。まずは、お近くの支援機関にご相談いただければと思います。

さて、今回の結論として私が言いたいことは、シンプルです。

中小企業に今後最も必要なのは、
「付加価値を高め成長するためのイノベーションを起こすこと」
この一点です。

物価高騰や賃金上昇を、ただ耐えるだけでは未来はありません。
経営者の一番の仕事は、「事業内容をブラッシュアップし、成長を目指す」ことにあります。

そのためのヒントを、次回以降も継続してお伝えしていきます。
合言葉はひとつ。

中小事業者こそ、イノベーションで成長を目指そう。


つづく

===筆者について==============================
宮城県よろず支援拠点チーフコーディネーター 佐藤 創
(中小企業診断士/高度情報処理技術者/ブランドマネージャー1級)
経営を左右する戦略論とマーケティング、ブランディング、財務戦略をミックスした
独自の成長支援、財務戦略支援が得意分野。「中小企業・小規模事業者こそイノベーシ
ョンの担い手である」を合言葉に経営支援を行う。
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