
こんにちは。 宮城県よろず支援拠点 生産性向上支援センターの本田です。
DXという言葉を聞くと、どうしても「新しいシステムを入れること」や「紙をなくすこと」、「AIやクラウドを使うこと」といったイメージが先行しがちです。
もちろん、デジタルツールの導入は重要です。しかし、現場の仕事の進め方が整理されていないままシステムを入れてしまうと、かえって業務が複雑になったり、入力作業だけが増えたりすることがあります。
先日、民間企業ではなく自治体の事例なのですが、この点で参考になる記事を見つけました。
ジチタイワークスWEBに掲載された栃木県足利市の事例です。
記事では、足利市が全庁で長年続けてきた5S運動を通じて、業務を見直す土壌を築き、その積み重ねがシステム導入前の業務整理を支え、DX推進につながったことが紹介されています。
5Sとは、一般的には「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」を指します。製造業の現場改善でよく知られていますが、実は事務部門や中小企業のDXにも非常に相性のよい考え方です。
というのも、DXで本当に変えるべきものは、システムそのものではなく、仕事の流れ、情報の流れ、判断の流れだからです。
足利市では、平成23年から全庁的な5S活動を始め、毎月5日を「5Sの日」と定めて、不要なごみ箱の撤去や備品の定位置化などを継続してきたとされています。さらに、各職場で中堅職員が5Sリーダーとなり、毎年1件以上の改善に取り組む体制を整えてきたとのことです。
ここで重要なのは、5Sを単なる片づけ活動で終わらせていないことです。現場の職員が、自分たちの業務を見直し、改善する習慣を持つようになっていた点に意味があります。
中小企業でも同じです。たとえば、請求書、見積書、発注書、顧客情報、在庫情報、作業指示書などが、紙、Excel、メール、個人のパソコン、クラウドストレージにばらばらに存在している状態で、新しいシステムを入れても効果は限定的です。むしろ、「どの情報が正しいのか分からない」、「二重入力が発生する」、「昔のやり方と新しいやり方が並存する」といった混乱が起きやすくなります。
だからこそ、DXの前段階としての5Sが効いてきます。
まず、不要な書類やデータを整理する。
必要な情報の置き場所を決める。
ファイル名やフォルダ構成のルールを整える。
誰が、いつ、どの情報を更新するのかを決める。
こうした地味な作業は、最新システムの導入に比べると目立ちません。しかし、ここを疎かにしてしまうと、システムは「便利な道具」ではなく「面倒な入力先」になってしまいます。
足利市の事例でも、デジタル化に向けた5Sとして、ペーパーレス化、パソコン内の不要データ削除、メール整理などを一斉に進めたことが紹介されています。その結果、紙の使用量削減だけでなく、写真データ約9万枚分に相当するデータ量の削減にもつながったそうです。
これは中小企業にとっても非常に示唆的です。データが増える時代だからこそ、データをためる前に、保存方法や運用ルールを整える必要があるのです。
また、足利市では「書かない窓口」の導入にあたり、いきなり全ての手続きをシステム化したのではなく、各課へのヒアリングを実施して、年間受付件数や処理時間を調べ、業務量を可視化した上で、効果の高い手続きから段階的に改革を進めたとされています。 これも中小企業のDXにそのまま当てはまります。
中小企業では、限られた人員と予算の中でDXを進める必要があります。だからこそ、すべてを一度に変えようとするのではなく、「どの業務を変えると一番効果が大きいのか」を見極めることが大切です。
たとえば、毎月必ず発生する請求業務、問い合わせ対応、在庫確認、日報作成、予約受付、見積作成など、件数が多く、手戻りや確認作業が多い業務から見直すと効果が出やすくなります。
また、中小企業庁の「2025年版 中小企業白書」でも、デジタル化によって図面を探す、進捗確認のために現場へ移動する、といった無駄な動きが減り、作業ミスの防止や生産性向上につながった企業事例が紹介されています。これは5S活動そのものの事例ではありませんが、「必要な情報を、必要なときに、誰でも見られる状態にする」ことがデジタル化の効果を高めるという点で、5Sと非常に近い考え方だと言えるかもしれません。
その意味で、5SはDXの準備活動であり、同時にDXそのものでもあります。不要なものをなくす。必要なものをすぐ使えるようにする。状態を見える化する。ルールを守り、継続的に改善する。これらは、まさにデジタル化を成功させるための基本的な活動です。
中小企業がDXを進めるとき、最初に考えるべきことは「どのシステムを入れるか」ではありません。
まず、「どの業務にムダがあるのか」、「どの情報が探しにくいのか」、「どこで二重入力や確認作業が発生しているのか」を見える化することです。その上で、業務の流れを整理し、必要な部分にデジタルツールを当てはめていく。これが、現場に定着するDXの進め方です。
足利市の事例が示しているのは、DXの成功には派手なシステム導入だけでなく、日常的な改善活動の積み重ねが欠かせないということです。中小企業にとっても、5Sは古い現場改善の手法ではなく、デジタル時代の業務改革を支える実践的な土台です。
DXを始めたいと思ったら、まずは身近な書類、データ、メール、業務手順を見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。
システム導入の前に5Sを行うこと。それが、遠回りに見えて、実は中小企業のDXを成功に近づける一番の近道と言えるのかもしれません。









